
内藤記念くすり博物館は、岐阜県の木曽川の清流に囲まれた小高い中州で、常緑の樹木の多く繁れる所にあります。わが国の医薬の歴史を伝えるべく、展示館、図書館、薬草園からなるくすりに関する総合的な博物館です。
今回は、内藤記念くすり博物館 森田館長より薬草園の紹介と2021年度展示館のイベント案内をしていただきました。
薬草園からのお誘い

薬草園では、くすりの原点である薬草を700種類栽培して、多くの方に鑑賞していただいています。また、日本では珍しい薬木園もあります。
春はジャーマンカモミール、シャクヤク、ジギタリス、シナマオウ、サンシュユ
夏はエキナセア、トウキ、チンネベリーセンナ、オタネニンジン、チョウセンアサガオ
秋はハナトリカブト、ゲンノショウコ、ウコン、ローゼルと季節の花々が咲き誇ります。
薬草園を散策していただくと、これらの、薬草(植物)がどのような目的で使用されていたことが一目でわかります。
エキナセアプルプリア
自然免疫を高めるメディカルハーブ。風邪予防、抗インフルエンザ、尿路感染予防、季節の変わり目、風邪の引き始めに服用は2週間
成分:フリオンカリオフィレン、ポリアセチレン、ベタイン、多糖類、カフェ酸誘導体、精油、フラボノイド
また、2020年から、抗ウイルス作用のある植物、認知症や癌、糖尿病に対しても良いといわれているコーナーも新しく設置しています。
抗ウイルス作用:ボタン、レンギョウ、エキナセア、タンニン類等
血糖降下作用:ハナスゲ、ゴボウ、オケラ、ハトムギ、クコ等
植物は、人間にとって最高の相棒です。植物や土壌は本質的に心身を癒やしてくれます。一度足を運んでいただき、薬草を鑑賞していただき、健康に役立てていただければと思います。
展示館からのお誘い
展示館では、杉田玄白先生の「解体新書」を初め二千点の資料を常設展示し、毎年企画展を開催しております。2021年は感染症の歴史にスポットを当てました。
解体新書の初版を展示しています。日本は、この書籍を発刊後、オランダ語の辞書を作成し産業革命中の欧州の情報を取り込みました。日本の近代化に大きく貢献した1冊です。
2021年度企画展
「わが国を苦しめた感染症と新型コロナウイルス」
<会期> 2021年4月28日(水)~2022年3月31日(木)
毎日、新聞、テレビなどのメディアのすべてが「新型コロナ」特集で、恐怖心が蔓延しています。随筆家の寺田寅彦氏は「ものをこわがらな過ぎたり、こわがり過ぎたりするのはやさしいが、正当にこわがることはなかなかむつかしい」(講談社 新型コロナ7つの謎 宮坂昌之 P4)と書いています。「ただしく恐れる」、「ただしく理解する」ことが大事だと思います。この場合、日本人はいかにパンデミックと対峙してきたかを知る事は有効なのではないかと思います。
わが国の「はやり病の歴史」
今回の企画展では、特に日本人を苦しめてきた“はやり病”と、それを克服しようとしてきた歴史を振り返ります。感染症の流行は古来、人類の歴史につきまとってきました。天然痘をはじめ、麻疹、コレラなどの感染症は社会生活を送る集団内で感染が拡大して流行するため、我が国では古来“はやり病”と呼ばれました。人類はたびたび危機に瀕しながらも、ワクチンにより天然痘を根絶し、公衆衛生環境の向上により結核の感染を減らしてきました。また、治療薬の開発によりエイズの治療も可能になりました。しかし、先進国においては感染症の治療が進展したことで、研究開発の中心は、高血圧、高脂血症や糖尿病などの生活習慣病の薬が主体となっていき、感染症研究も次第に縮小傾向となりました。
2019年より全世界に広まった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により、感染症研究者数が不足し、また研究施設の整備などパンデミックへの備えが遅れているなど、社会の脆弱性が露見することとなりました。今回のCOVID-19の流行は、科学の発展した21世紀において私たちの生活を大きく変え、感染症がいまだ脅威であることを改めて思い知ることとなりました。
近年猛威を振るったSARS、MERS、新型インフルエンザとその治療薬、対処法を解説します。猛威を振るっているCOVID-19については、どんな病気なのか、インフルエンザとどこが違うのか、免疫の暴走がなぜ起こるのか、また、治療薬やワクチンの研究開発の準備状況、現時点(2020年12月末)で判明している過去の情報を整理して紹介します。「コロナ禍」と呼ばれるCOVID-19流行の記録のひとつとして、「正しく理解する」一助となりましたら幸いです。
内藤記念くすり博物館 館長 森田宏
http://www.eisai.co.jp/museum/index.html