岐阜県各務原市に住みはじめていつの間にか4年目に。温暖なゆったりとした香川県で育った私は、岐阜県は同じ国とは思えないほどの激しい寒暖差と雨量。
その自然の厳しさに育まれた植生や文化。あまりの違いと激しさに翻弄されつつも徐々に慣れ、親しい人も増えてきました。
アート、植物、お風呂、サウナ、興味を持ったジャンルで出会う素敵な人たち。素敵な場所。これは誰かに聞いてほしい!!を形にすべく、不定期ですが紹介コラムを書かせていただくことになりました。
今回は各務原市川島町、旧繊維工場のリノベーションが密かに注目される街に住むご夫婦を、二本立てで紹介いたします。
セニガリエズィ夫妻
アレサンドロ・セニガリエズィさんと奥様の妙子(以下妙さん)さん。
3年前から川島町の工場付きの古民家で、娘さんと家族3人で暮らしています。
今回はまず、アレサンドロさん(以下アレさん)についてお話します。
アレさんはイタリア・ミラノ出身。インテリアを中心に、暮らしを心地よくするための提案を多方面に展開する「ライフスタイルデザイナー」です。
自宅に隣接する元繊維工場は「+design studio」として開放し、ご自身のアトリエとして制作活動を中心に、様々なデザインワークショップを開催しています。
私との出会いは、お互い講師として活動する、
KAKAMIGAHARA PARK BRIDGE(かかみがはらパークブリッジ https://www.kparkbridge.com)の
アートスクール「ART LABO CHOPSTICKES
(https://www.kparkbridge.com/イベント/アートラボチョップスティックス-1/)」のオープニングイベントにて。
絵画講座を受け持つ私が子どもたちと描いた大きい絵を、デザイン講師のアレさんにインスタレーション(空間演出)作品として展示をしてもらいました。
子どもたちが一心不乱に描いた良くも悪くも大胆すぎる絵が、アレさんの演出にかかるとびっくりするような素敵な作品に代わっていくのを見て、デザインや演出の必要性を強く感じました。
ライフスタイルデザインとは...?
まずデザインという言葉を聞いて思い浮かべるものは何でしょう。
ファッションなのか、建築やインテリアに関わるものか、イラストや紙面、WEBページにもデザインという言葉はついてきます。おしゃれに、美しく装うことがデザインでしょうか。
アレさんは「デザインは1番良い状態のための提案」とおっしゃいます。
対象について成り立ちを知り、背景を知り、今の状態と問題を知り、社会情勢を知り…、
ずっと先の未来まで存在し続けられるように、新しい姿を提案していくことがデザインであるとつづけます。
ただなんとなく美しく見せるのではなく、「これ」が「何」で「どんなものか」を知ることが出来るのはもちろん、未来の先の姿まで考えるのが【デザイン】だと考えてお仕事をされています。
お話を聞いて、ぼんやりとしかわかっていなかった、ライフスタイルデザインとは何かが「自分の生活に焦点を当て、何が、どういうもので、どう変化していく、もしくは維持できるのが最適かを知り、最も心地よい状態に向けて、多方面からのアプローチしていくこと」なんだなと思いました。
アレさんとお話をしていると、自分の知っている事から遠い話題や全くイメージが広がらなかった方面へもいつのまにか連れて行かれているような不思議な感覚を得ます。
それはアレさんが、過去、未来と時空も意識しながら広く俯瞰した知識と見解を持ち、 常に何方向にも可能性を感じさせながらも本筋は見失わない。広い視野を共有し、より良い方向へ向かっていくようにあらゆる方向にイメージを広がるよう会話を持っていってくれているからだと思います。
デザインに対する考え方やスタンスが、日常会話の中にも現れているようです。
そもそもアレさんが生まれながらにそういった感覚を持たせる包容力かある人なのか、生きていく内に身についたスキルなのか、これまでの経歴を聞きながら探っていきました。
思考のルーツを探る
アレさんのアトリエにお邪魔すると、まず絵画の作品が目に留まります。アクリル絵の具ではっきりとした輪郭で描かれる美しくデフォルメされた植物や顔も様なもの。どこかエキゾチックで南の方の原始的な国の気配を感じます。
アレさんと奥様の妙さんが出会ったのは今から10年以上前のオーストラリア。デザイナーとしてイタリアで経験を積んだアレさんと、マッサージの仕事をしつつ新しい価値観に触れてみたくなった妙さん。それぞれワーキングホリデーでオーストラリアを訪れ、バックパッカーとして同じホステルに滞在していたそうです。
徐々に意気投合し、デザインの仕事からアボリジニの人々や文化に興味を持ち、その後一緒に渡ったニュージーランドでも、マオリの文化や工芸関係の職人たちのスキルに惚れ込み、現地に彼らの生活の中に自分を落とし込みながら、自然との共存や、自分たちのなんとなく続けている生活習慣の中にある無駄や環境破壊に繋がるものへの意識が高まっていったそうです。
その後お二人で日本へ。知らない土地を知りたい気持ちからの移住ですが、そこで妙さんの生まれ育った土地や生活様式や家族を知ることで、お互いの理解がより深まっていったそうです。
自身に別のストーリーを落とし込む
アレさんの経歴を聞いていると、住んでいた土地や触れた文化の種類、手がける作品のバリエーションや生業にしたお仕事は、多岐に渡り一つ一つどれも濃厚に深めていて、単純になんでもできる人なのかな?という印象を受けます。
しかし、アレさんの心の中心にあるのは常に【デザイン】。
常に良いデザインや作品を産むために、土地に住み人々に触れストーリー全部を吸収し自分に落とし込む事で大きな力として作品へ変える。 植物を育てるための土作りのように、自身へのインプットへの熱量が常人離れしている、デザインの職人です。
日本の造園業の職人としての経験もお持ちのアレさん。
ご自宅のお庭も自ら整備し、たくさんの植物が美く育っています。イタリア、オーストラリア、ニュージーランド、日本と住む中で、自然に触れる生活が好きなのも一つの理由ですが、それ以上に「人と自然は良好なコミュニケーションを取らなければ未来はない」という信念が自然や植物への更なる理解を求めて造園の世界に入っているようです。
身の回りで起こる小さな選択、買いもので何を選ぶか、どんな道具を使うのか。これらの小さな選択の背景には大きな環境破壊や資源の無駄遣いが隠れています。
なにも考えずに生活しているとどんどん悪い方向へ進んでいくけれど、少しの考慮と選択の変更の繰り返しで良い方向にも進んでいけます。
「デザインの仕事は人々の生活をランクアップさせること」と語るアレさん。
街に住み、人と関わり、デザインの観点から持続可能な生活に向けてアプローチを続けています。
アートラボの講座では、廃材を使った育つハーブガーデンや、着なくなった服を素材として作るフォトフレームなど、リサイクルやリユースをテーマに生活を彩るデザイン講座を開催しています。ただ何かをつくるだけではない発見が参加者の皆様の中に生まれるようです。
次回は、アレさんのそういった思想が自宅や生活の中でどの様な形で行われているのか。奥様の妙さんのお話を聞きながら、サスティナブル(持続可能)な生活への取り組みについて、やってみたい!!やらなきゃ!と思える生活の工夫についてお話します
筆者:澤田摩耶 現代美術家
香川県出身 日常の中に変化が生まれる瞬間の閃きを油彩で描く。
岐阜県各務原市に移住し、恵みの湯WEBスタッフとして在籍中。
ハーブやサウナのある暮らしに心酔し、口を開けばサウナイキタイ!
公式Instagram https://www.instagram.com/maya_s_kaitano/