「天空の古来茶」(※1)の煎茶を飲んだとき、その喉越しに驚きました。
きれいな若草色をしたお茶は、緑茶の苦味がしっかり感じられるのにお水のようにさらさらと喉を通ります。
鼻から抜ける香りはどこか懐かしくて、こんなに後味がスッキリとしたお茶は今までに飲んだことがありませんでした。
どんな人がこのお茶を作っているのだろう?春日地区ってどんなところだろうと気になったので、茶農家の「傳六茶園」の森さんに会いに、伊吹山の麓まで行ってきました。
傳六茶園さんは岐阜県揖斐郡揖斐川町の春日地区に位置する「春日の小さな茶農家」さんです。
(※1)伊吹山の麓、揖斐郡揖斐川町の春日地区で栽培されている無農薬栽培された在来品種名。
平成22年からはブランド名を「天空の古来茶」とし、茶生産・販売。
小雨の降る中の訪問にも関わらず、代表の森さんが快くお出迎えをしてくださいました。
ご挨拶もそこそこに、同行した息子たちが退屈しないようにと周辺や敷地内をどんどん案内してくれる森さん。「ここにサワガニがいるんだよ」という、興味をそそるパワーワードのおかげで、緊張気味の子どもたちの顔があっという間に笑顔になりました。
お部屋に案内いただくと、さっそく2種類の「天空の古来茶」を淹れてもらいました。
「うん、おいしい。そうそう、この口当たり」
「煎茶」はストレートに緑茶の苦味を感じることができますが、喉を通ると何も引っかかることなくすーっと体に染み渡ります。
「一番摘みほうじ茶」は澄んだ飴色のほんのりとした甘み、優しい口当たり、豊かな香りが鼻に抜け、どこか懐かしさを覚える味。
一口いただくごとに呼吸が整い、肩の力が自然と抜けていきます。
今回は、特別にお茶と一緒にいろいろな茶器ともにお茶菓子までいただきました。
その器の種類の多さや気遣いに、日頃からお茶の時間を大切にされているのかと伺えば、
「そんなことないよ」と森さんは言います。
美味しいお菓子を頂いたときは器やお皿にこだわって落ち着いた時間を過ごしたいけれど、
普段はゴクゴクと飲んで喉を潤しているそう。
「ウチのお茶(天空の古来茶)を飲む人には茶葉の量やお湯の温度を気にするよりも、その人が美味しいと思う淹れ方で飲んでもらえればそれで良い。そう飲んでもらえるのが嬉しい」と。
その気取らない言葉に、失礼ながらも私となんら変わらない飲み方をするのだなと思いました。
日本茶は、今から1200年以上も前に最澄が唐より持ち帰ったものが始まりと言われています。
現在、日本で流通しているお茶のほとんどが、機械による摘み取りや加工がしやすい「やぶきた茶」というものです。
しかし、春日の地域一帯では山深い地形が災いし、1200年以上前に唐から伝来したままの在来茶を生産し守り続けています。摘み取り、製茶加工されたお茶は、農薬や肥料を使用していないために余計なものが一切混ざらず、お茶本来の味が抽出されます。おばあちゃんのお家を思い出すような、昔ながらの豊かな味わいです。
では、なぜ春日では在来茶の無農薬栽培を700年以上もの長い間守り続けて来られたのでしょう。
農薬を使用しないことがこだわりなのかと聞けば、使用しないのではなくて、必要がないそうです。
山間部に位置する春日は冷涼で朝霧が発生しやすく日照時間も限られています。
そこで育ったお茶の新芽は、柔らかく、瑞々しく、明るい黄緑色をしています。
平地なら暖かくなるにつれて虫の被害に悩まされてしまうので農薬を使わざるを得ませんが、
ここ春日は標高が高いため刈り入れの時期に虫が付きにくいのだそう。
また、春日の人々は昔から家庭で飲むためにお茶を栽培してきたと言います。
他所に売るでもなく、赤ちゃんからお年寄りまで家族みんなに美味しいお茶を飲んでもらいたい。
害虫被害がないから農薬も必要ない。
農薬の入ったお茶を家族に飲ませたくない。
森さんの答えは、とてもシンプルでした。
日当たりや雪解け水など、人間が手を加えることができない春日の自然が生み出したお茶。
手間暇はかけるが、余計なことはしない。
ありのままのお茶を守る、その心がこだわりのようです。
決して敷居の高い特別なお茶をつくりたいわけではありません。
代々、守られてきた生産量の少ない無農薬の在来茶を、春日のお茶農家の生活を守るためにブランド化したのが「天空の古来茶」です。
故郷、春日の土地と人々を大切に想い
その思いやりと気さくな森さんの人柄がそのまま商品となったような味わいの「天空の古来茶」
あなたも大切な人と一緒に飲んでみてはいかがでしょうか。
記事:黒崎文子
岐阜生まれ岐阜育ち。恵みの湯店舗スタッフ。
知的探求心が旺盛で得た知識や経験をもとに店舗の売り場作りに勤しむ。自然が大好きで休みの日には時間をみつけてドライブに出かけるるのが日々の癒し。メガネがトレードマーク。