お風呂場で細菌が潜む、意外なモノ

お風呂場で細菌が潜む、意外なモノ

微生物の研究をしている()共生環境技術研究所の山田博子です。

少しずつ涼しくなって、お風呂に長く浸かりたい季節、ふとお風呂場の隅に目をやるとピンクぬめり!黒カビ!なんてことありますよね。

使わない時間は換気扇や浴室乾燥機で、ある程度乾いている(はず)
毎日お掃除しているはずなのに、いつの間にか増殖してる。

空気中にも雑菌がいるから仕方ない、と思っていらっしゃる方も多いかもしれません。
今回は、ご自宅のお風呂場にあるかもしれない、意外な細菌のすみかをご紹介いたします。

せっけん 石鹸 細菌 要注意

固形石鹸に細菌が生息

20年ほど分析のお仕事をしていますが、時々変わった検査試料をお持ち込みいただくことがあります。
(こっそり短めに宣伝させていただきますと()、当社ではご相談内容に応じて試験方法を提案しています。大手の分析会社では公定法で決まった試験しか受けないことが多いので、お困りの方はお気軽にお問い合わせくださいませ。)

昨年、あるお客様から、固形石鹸の変色の原因を分析してほしい、とご依頼いただきました。
確認すると、丸い変色がある・・・コロニー(微生物の集落)に見えなくもない。
ということで分析に入る前に、まず石鹸と微生物に関連する文献を調査してみました。

そうすると30年以上前からここ10年以内にわたるまで、国内外の論文が出てきました。
それらの論文によると、研究で調べた固形石鹸のうち、なんと最大96%の石鹸から細菌が検出されていました。

液体石鹸は最大でも8%程度でしたので、固形石鹸はかなり高確率です。
欧米での調査結果だけでなく、2010年の論文で日本の保育施設でも石鹸から高確率で細菌が検出されていました。

つまり「通常の方法で使用している石鹸には細菌が生息している」と考えられます。

固形石鹸に生息しているのは、主にブドウ球菌

ここ1年余り、石鹸での手洗いが習慣になっていますが、液体せっけん普及前は、手洗いには固形石鹸が定番でした。

中身が容器に入っている液体せっけんとは異なり、固形石鹸は外気に触れていることが前提の製品です。では、固形石鹸に生息している細菌は、どこから来たのでしょうか?

論文には菌種を調べた結果も記載されています。
主な菌種は、表皮ブドウ球菌・黄色ブドウ球菌を含むブドウ球菌(スタフィロコッカス属菌)でした。

私たちの皮膚には常在菌として、表皮ブドウ球菌などの細菌がいます。
つまり固形石鹸に生息している細菌は、私たちの皮膚に由来する細菌と考えて良さそうです。
お風呂場でせっけんカスが残っていると、細菌がそれを餌にして増殖しますので、石鹸本体にも生息していて当然かもしれません。

ブドウ球菌の一種である黄色ブドウ球菌は、顕微鏡で見ると写真・1のように丸い粒状に見えます。
この細菌の増殖pH4.010.0で、増殖温度帯は547.8℃です。
水分活性※注0.87以上ですので、乾燥していれば増殖できません。

固形石鹸は脂肪酸をアルカリと反応させて作られるもので、pH9.011.0程度のアルカリ性です。つまり、ブドウ球菌は石鹸が乾燥していなければ少しずつ増殖することができます。

論文では、固形石鹸の拭い液1mlあたりの菌数は最大約630でしたので、固形石鹸上で増殖したと考えられます。

せっけに潜む細菌 要注意

固形石鹸を清潔に保つには

石鹸の表面は細菌がモサモサ増える場所ではありませんが、何とか生息・増殖できる細菌はいるんです。
たくましいですね・・・。

ということで対策としては、固形石鹸は使用後には自然乾燥できるよう、水切りができるソープディッシュに置きましょう。もちろんソープディッシュの受け皿部分の水分もできるだけ取った方が良いです。水に浸かっている状態だと、細菌が増殖しやすくなります。

固形石鹸は、毎日使う(表面を洗浄し、乾燥する)ことで、清潔を保っていただけたらと思います。

 

【参考文献】

  1. McBride ME. : Microbial Flora of In-Use Soap ProductsApplied and Environmental Microbiology48(2):338-3411984
  2. 長瀬 修子・日坂歩都恵「保育施設における手洗い場からの細菌の検出」近畿医療福祉大学紀要Vol.11(1)79852010
  3. 平成 21 年度食品安全確保総合調査 「食品により媒介される感染症等に関する文献調査報告書」(黄色ブドウ球菌)

※注
水分活性とは、同一条件下における食品中の「自由水(微生物が利用できる水)」の割合。
水分活性の値は0から1の範囲にあり、水分活性が高いほど自由水が多い。
一般的な細菌は0.90 以上、酵母は0.88 以上、カビは0.80 以上で増殖可能。

共生環境技術研究所 岐阜
()共生環境技術研究所 代表取締役 山田博子

岐阜大学応用生物科学研究科修了後、公設試・医療系ベンチャー企業を経て、2003年に岐阜大学発バイオベンチャー企業の取締役に就任。微生物を利用した技術開発(土壌汚染対策・バイオマス利活用等)、殺菌装置の開発、衛生検査所運営などに従事。2017年の東京都・豊洲市場移転問題に関する百条委員会では土壌汚染対策に関する技術資料調査チームに参画。2018年より現職。

(株)共生環境技術研究所ホームページ  www.symbio-labo.co.jp

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