スギ花粉が飛ぶ季節の入浴

スギ花粉が飛ぶ季節の入浴

2022年が幕を開けました。

寒さが緩んで少しずつ春に近づいてくると、例年スギ等の花粉症で憂鬱になる方が増えますね。

放出源の一つであるスギ雄花は、既に1月あたりで気温の変化で休眠から目覚め、花を咲かせる準備を開始しています。

日本気象協会の2022年春の花粉飛散予測(第2報)によると、スギ花粉シーズンのスタートは例年並みで、九州や四国、中国、東海、関東の一部では2月上旬から飛び始めるということです(引用文献1)

飛散開始と認められる前から少しずつ飛び始めますので、1月のうちから早めに対策を始めると良さそうです。

今回はスギ花粉の性質や花粉が起こす肌荒れのメカニズム、入浴での花粉対策についてご紹介します。

スギ花粉のアレルギー物質は、外層と内部両方に存在

スギ花粉が風に舞っている映像を見たことがある方は多いと思います。
スギの雄花(写真1)から採取した花粉を顕微鏡で観察すると、ほぼ球形(写真2)をしています。

スギ花粉 スギ 雄花 クローズアップ画像
写真1、スギ雄花

 スギ花粉 顕微鏡写真2、スギ花粉

スギ花粉のアレルギー物質は、花粉の外層と内部の両方に存在します(引用文献2)

花粉壁外層にはCryJ1(クリジェー1)という抗原タンパク質、花粉内部のデンプン粒にはCryJ2(クリジェー2)という抗原タンパク質があり、アレルギー物質として目や鼻のアレルギー症状を引き起こすことが知られています。

スギ花粉症患者は一様にCryJ1CryJ2によってアレルギー反応を起こしているという特徴があります。

ちなみにスギ花粉は、水分を含むと球体がパカッと開いて中身が出ます(写真・3)。
粘膜などの水分がある場所は、外層のCryJ1と内部のCryJ2の両方が接触してしまう、という訳です。

スギ花粉 水分 含んだ状態写真3、水分を含み開裂したスギ花粉

 

花粉症でなくても、花粉が肌荒れを起こす!?

前述のCryJ1について、昨年1月に資生堂が「スギ花粉による肌荒れの新たなメカニズムを解明」というプレスリリースをしました(引用文献3,4)

発表されたメカニズムは、スギ花粉表面のCryJ1が血液凝固因子で知られる「トロンビン」というタンパク質を活性化し、表皮細胞が興奮して細胞間脂質分泌が減少して水分が蒸発しやすくなり、肌荒れを起こすというものです(図・1)。

一般的に知られているアレルギーのメカニズムとは異なりますので、花粉アレルギーでなくても、花粉によるアレルギーを引き起こす可能性を示しています。
春先の肌の不調は、もしかしたら花粉によるものもあるかもしれません。

なお、資生堂はこの表皮細胞の興奮を抑制する物質として、トラネキサム酸(引用文献6)やトリペプチド(グルタミン・システイン・グリシンで構成) (引用文献3,4)に関して報告しています。

 トラネキサム酸 トリペプチド グルタミン システイン グリシン
図・1 スギ花粉の抗原タンパク質「Cry j1」と
有用薬剤(トリペプチド)の作用メカニズム(引用文献3

 

入浴+抗炎症作用のある成分で花粉による肌荒れ予防

花粉対策としてCryJ1等を不活化する方法は、加熱や薬品、紫外線処理(引用文献5)などが報告されていますが、肌に利用するのは現実的ではありません。

付着した花粉を洗い流すことでCryJ1等との接触時間を短くできますので、毎日の洗顔・入浴・洗髪は、花粉症や花粉による肌荒れの予防・軽減に効果的です。

また洗顔や入浴後は、CryJ1等による表皮細胞の興奮を抑える為に、抗炎症作用のある成分(トラネキサム酸等(引用文献6))を含む製品を活用して、花粉の季節を少しでも快適に過ごしていただければと思います。

【引用文献】

1.日本気象協会 2022年 春の花粉飛散予測(2) (https://www.jwa.or.jp/news/2021/12/15410/)
2.安枝 浩:日本花粉学会会誌 46(1), 29-38(2000)
3.株式会社資生堂 プレスリリース 2021120(https://corp.shiseido.com/jp/news/detail.html?n=00000000003059)
4.Nakanishi S et al.:フレグランスジャーナル 10月号,15-20(2020
5.頭川武央他:環境技術 48 6 p. 327-333(2019)
6. Kumamoto J et al. :Archives of Dermatological Research 308: 49-54(2016

 

共生環境技術研究所 岐阜
()共生環境技術研究所 代表取締役 山田博子

岐阜大学応用生物科学研究科修了後、公設試・医療系ベンチャー企業を経て、2003年に岐阜大学発バイオベンチャー企業の取締役に就任。微生物を利用した技術開発(土壌汚染対策・バイオマス利活用等)、殺菌装置の開発、衛生検査所運営などに従事。2017年の東京都・豊洲市場移転問題に関する百条委員会では土壌汚染対策に関する技術資料調査チームに参画。2018年より現職。

(株)共生環境技術研究所ホームページ  www.symbio-labo.co.jp

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